『天使の代理人』 [本のこと]
「・・・・生殖可能期の女性であるかぎり、身体の奥底ではつねに、子供を生むためのリズムが刻まれている。 そう思うと女って、すごく動物的よね」 (山田宗樹「天使の代理人」より
妊娠中絶・堕胎をテーマにした小説です。
ほんとにもう、この山田宗樹という方は、
女性をよく研究してるなぁ、と感心。
この小説には、さまざまなタイプの女性が登場します。
生まれ育った境遇から人生観、もともとの性格、、
それに加えて、生き方の選択肢が多い現代、
それによって同じ女であっても、妊娠することに関して、こんなにも考え方が違うものかと、
改めて思い知らされました。
引用の文は、
その中のひとりの女性の台詞。
これって、最近わたしがしみじみ思うことなのです。
このあと、この女性と母親のやりとりが続くのですが、
母となり、子供の成長を見守った女性の考え方は、
ある程度経験を積まなければ、わからないのだろうな、、、と。
胎児を人間とみるか、物体とみるか。
それは誰のものか。
女性も自分の生き方を自分で決める権利がある。
そこで、望まない妊娠を、、、、どう扱う?
もちろん、ひとりで勝手に妊娠するわけではない。
その責任をとれる男性を、必ずしも選べるとは、いいきれない。
どうする?
同じ女性として、
それぞれの登場人物の考え方に、同感することもあり、
ひどく嫌な気分になることもあり、
でも、そのどれもが、
間違っているとは言えないし、
正しいとも言えない。
命について、深く考えさせられました。
衝撃的な描写もあるので、妊婦さんにはどうかしら・・・と思いますが、
妊娠する可能性をもつ女性すべてに、
そして男性にも、
読んでいただきたい作品です。
TV討論のシーンは、実在の人物を連想してしまうキャラクターがあり、
おもしろかった。
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新年の抱負 [本のこと]
あけましておめでとうございます。
ブログ開設して始めての正月を迎えました。
なかなか、思うように更新できず、
自分でも満足できないまま、時だけが過ぎ・・・
もっと、すらすらと、書けるように、
もっともっと、読書しなきゃ!
人の話聞かなきゃ!
日本語上手くならなきゃ!!
せっかく訪問してくださった方々にも満足していただけるサイトを目指して、
自分を磨いていきたい。がんばろう。
『直線の死角』*究極の愛って? [本のこと]
第18回横溝正史章受賞作、『直線の死角』を読みました。
山田宗樹の作品を読むのは、
『嫌われ松子の一生』、『黒い春』につづいて3作目。
一日に2件の、しかも両方とも交通事故がらみの依頼をうけた弁護士。
被害者遺族の示談交渉と、加害者の刑事裁判。
そして、有能な新入り事務員の女性。
このふたつの事故と、彼女がどうからむのか、、、、
わりとすぐに先の予測はついたのですが、
一方で予想外の展開もあり、
読み止めることができず、一気に読んでしまいました。
前に読んだ2作もそうだけど、
登場人物に人間味があって、わかりやすいのがいい。
ただ、女性に対しての認識に若干不満を感じましたが、
ん。。。10年近く前の作品なので、時代的に仕方ないかなぁ。。。
本の紹介には、“究極の愛”とあります。
さて、これについても、考えさせれる社会問題が。
今後、ますます好ましくない状況になる予測が、最近発表されたばかりです。
ちゃんとまじめに考えないといけない問題です。
交通事故で、示談だの賠償金額だのというのはよく聞くけれど、
“逸失利益(いっしつりえき)”というのは初めて知りました。
それだけでも、ひとつ勉強した気分。
ドキドキハラハラ、そして感動もありで、
いい1冊でした!
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『100万回生きたねこ』 [本のこと]
きょうは、わたしの愛読書のひとつ、
『100万回生きたねこ』の話をすこし。
初版は1977年、わたしが持っている本は1994年の第51刷ですので、
現在出回っているのは、いったい何刷でしょうね。
ということで、絵本好きな方には、あまりにも有名。
わざわざわたしが説明するまでもないですが、
いろんな飼い主に飼われ、そのたびに死に、そのたびに生き返り、 「100万回死んだ!」のが自慢なねこ。 あるとき、だれのものでもない、のらねことして生き返り、 恋をし、家族をもち、やがて死んだとき、もう生き返らなかった。
そういう話です。
飼い猫であるとき彼は、飼い主を好きではなかった。
彼が死んだとき、すごく悲しんでくれるような人々だったのに、です。
とにかく自分自身が大好きだった彼なのです。
それは、のらねことして生きたときも変わりなかった。
でも、大切なものができたとき、
あれほど自慢していた「100万回死んだ」ことは、
彼の中で何の価値もないものへと変わっていたのです。
絵本の中で、ねこの最期の絵は描かれてないけれど、
きっと安らかな死に顔だったことでしょう。
生まれてきた以上、いつかは死ぬ。
だったら、どう生きるか、、どう死ぬか。
そして、愛すること、愛されることの意味。
ちゃんと、考えたくなる大人の絵本です。
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佐野洋子の本
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クリヴィツキー症候群 [本のこと]
ロシアの元情報局員が暗殺(?)された事件は、「まるで小説のようだ」と、驚いたものでしたが、
スパイがらみの、こんな本を読みました。
ソ連大使館員殺害の容疑で逮捕された大学教授が、突如聞き慣れぬロシア人名を口走り、精神鑑定に持ち込まれた。自分は元ロシア赤軍情報部のスパイ、クリヴィツキー将軍の生まれ変わりだというのだ。彼は心神喪失状態なのか、それともなにか他の可能性が?・・・<<<紹介文より。
主人公、岡坂は小さな調査事務所を開いています。
調査研究はもとより、ゴーストライターからベビーシッターまでやる彼は、実はスペイン内戦について非常に詳しく、そんな絡みで入った仕事のうちのひとつが、「クリヴィツキー症候群」。
生まれ変わり?乗り移り?
いや、そんなはずはない、と自分なりに想像しながら読み進み、
はたして解決の糸口は・・・
あぁ~、こんなところにあったのか!!というかんじです。
「クリヴィツキー症候群」を含め、5作の短編集。
十分読み応えありました。
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逢坂剛の本
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『六角形の小部屋』 [本のこと]
長い間、わたしは自分のことを、それほど悪い人間じゃない、むしろ比較的いい人間だと思い込んでいました。滑稽でしょ? 警察に捕まったこともないし、停学にもならなかったし、・・・(中略) でもそんなこと何の証明にもならないんです。人間の心なんて、どこまでも行き止まりがありません。わたしは入り口の近くで、無邪気にうろうろしていただけです。(小川洋子「六角形の小部屋」より)
文庫「薬指の標本」に収めえられた1篇です。
プールの更衣室で見かけた、一見なんでもない普通のおばさんに惹かれた主人公。こっそりつけると、そこには、ひとりっきりになって何でも語るための小部屋があった。。。
自分の生き方が正しいだなんて、誰も言い切れない。
でも時々、間違った方向に進んでないか、
もっとよい道があるのではないか、と見直してみることは必要だと思います。
2003年巨人軍に無償トレードされ、4年ぶりにホークス復帰が決定した小久保選手が、ようやくTVのインタビューでこんな話をしていました。
「どこかで、客観的に自分を見ている、もうひとりの自分がいる」
なるほど。
そこに小久保選手の、野球人として皆に慕われ、尊敬される人格形成のモトがあるようです。
この小説の中では、その小部屋でとにかく何かを話さねばならない。
そうすると自分と一対一で向き合う、自分を見つめる、自分を知る。
自分の嫌なところ、醜いところ、ズルいところ、
口に出しちゃってすっきりするか、それとも自分を思い知るか。
でも、みんな常連さんなんです。
みんな、口に出して言えないけど、口に出して言いたいことが、ある。
結末は、小川洋子作品例によって、、なんですが、
なんか妙な安心感をおぼえました、私は。
この話の中で重要な位置を占める“みどりさん”、
引用すると、身体(からだ)全体から漂っている圧倒的な平凡さが、年齢や趣味や人柄や、そういう初対面の人を判断するための要素を全部覆い隠していた
、そんなみどりさん、映像化するならば、市原悦子さんに演じていただきたいです(笑)。
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『薬指の標本』 [本のこと]
封じ込めること、分離すること、完結させることが、ここの標本の意義だからです。 繰り返し思い出し、懐かしむための品物を持ってくる人はいないんです。
<<<<<小川洋子『薬指の標本』より
事故で薬指の先端をなくしてしまった主人公は、
[標本室]で働くようになります。
そこは、人々が持ち込んだ品々を、
標本にし、保存する場所。
ある日、彼女は標本技師から靴をプレゼントされます。。。。
依頼に訪れる人々の思い出は、
短いけれど、それぞれひとつのストーリーとなっていて、
胸を打たれます。
その中で、標本技師との関係がどうなってゆくのか、
想像はつくのだけれど、ドキドキしながら読みました。
甘く、痛く、せつない想い、、、そして彼女の選択。。。
小川洋子作品には、"収集"、"消滅"といったテーマがよく盛り込まれているのですが、
これもそれに漏れず。
最初に読んだのは『博士の愛した数式』でした。
クールな文章でありながら暖かく、先が読めないストーリーにすっかり魅了され、
その後何冊か読みました。
読むほどに感じるのは、
『博士の愛した数式』って、彼女の作品の中では、かなり理解しやすい話であること。
ほとんどは(もっとも全てを読んだわけではないけれど)、
私のコトバで表現するなら、
柔らかな、薄いベールで包まれた、ファンタジーなホラー、そんな感じです。
現代なのか、近未来なのか、特定できない超現実的の中の現実。
ありそうでなさそうで、やっぱりなさそうな話なんだけど、
会話やエピソードは、やけに現実味があり、
その繊細な表現も好きなんです。
なので、この『薬指の標本』がフランスで映画化されたときいて、
これはいいぞ、と思いました。
すでに公開されている劇場もありますが、
わたしの地域では、まだ先になりそうです。
予告編を見ると、かなり原作に忠実なようです。
ただ、標本技師は、ちょっと年が上かな~。
臓器移植、こんな将来きませんように・・・ [本のこと]
「やい、おやじ。 だれがこの世に生んでくれとたのんだ。おれじゃないぜ。 そっちが勝手にしたことだ」
(星新一「少年と両親」より)
昭和46年に刊行されたショートショート集「未来いそっぷ」の中の一作です。 乱暴な少年のこんな言葉から始まります。 怪我しないように、病気しないように、大事に大事に育てられたひとり息子から、毎日毎日こんな暴言を浴びせられ、金をせびられ、 まったく最近はよく見聞きする痛ましい状況ですが、この話、思いがけない展開をします。 大事に大事に育てた理由(わけ)とは??
●━━━━━━━━●
先日、身内と偽って腎臓を提供したということで、依頼した側は逮捕されていましたが、提供者も18日、書類送検されたようです。
この「少年と両親」のオチは、臓器移植。
ショートショートなんで、これ以上書くと、まんまになっちゃう。
ストーリーについてはここまでで止めておきます(-_^:)
で、ここからは私の感想。
大事に育てて、よい状態で高く売る。
「その時」のために、辛い仕打ちにもじっと耐え。怖いですね~。
臓器移植については、とっても難しい問題ですね。
宗教的なこと、倫理的なこと、価値観、、、、
そんなこんなで、日本の現状としては、提供者が圧倒的に少ないということが一番の問題点でしょうか。
これだけ医療技術が発達して、移植すれば助かる、楽になるということであれば、なんとかして移植したいということになるでしょう。
売買はいかんです。
いかんですが、手に入る方法があるとしたら。。。
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うわぁ( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ロ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;;)
このストーリーのような現実が、やってこないことを祈ります。
『黒い春』 [本のこと]
「嫌われ松子の一生」つながりで手に取った、
山田宗樹の長編です。
527ページ。
文庫本では厚めの22ミリ。
本を読むのは、通勤電車の中での往復60分のわたしは、
普通の文庫本を読み終えるのに3~4日かかるのですが、
これは、手にとって「1週間、かな」と。
しかし、読み出すと、話の先が気になることといったら!
結局、家でも手放せず、3日で読み終えました。
これはわたしにしては、快挙ですぞ!
話は、急死した若い女性の遺体から、未知の黒色胞子が発見されたことから始まります。
不気味な黒い粉が、ほらそこに、、きゃ==。
なんてね。
読み始めは、「パラサイト・イヴ」を読んだときの興奮を思い出しました。
そして歴史モノ、人間ドラマへと展開。
原因究明にいたるのか、犠牲者は増えるのか、ハラハラドキドキ。
死はいつかは訪れるもの。
愛する人の死、大切な人の死をどう受け止めるか。
また逝くものとして、何ができるのか。
重いずしりとしたものが、胸の深いところにはまりこんで、
余韻は数日残りました。
それにしても、医療に関わるお仕事って大変ですね、ほんと。
人類の歴史は、病気との闘いの歴史なんだなぁ。
『嫌われ松子の一生』 [本のこと]
「どうして?」
愛する男の、走り去る背中をただ見ながら、
つぶやく。
今度こそ、幸せになれると、思ったのに。
ね、松子。
映画『嫌われ松子の一生』を観てから、原作を読みました。
映画は、[みりんだの今年観た映画のベスト5位]内には、絶対入る!
ポップな彩り・音楽に、
実はとっても可哀相な話なんだけど、悲壮感はさらりと、
そこんとこのバランスがすごくよくて、
トルコ嬢から超肥満体まで演じた中谷美紀も、キズだらけの伊勢谷友介も、よれよれTシャツの瑛太も、
みんなかっこよくって、大好き。
ということで、原作が気になり、すぐに購入。
好きな人に好かれたいだけなのに、
幸せになりたいだけなのに、
一生懸命、生きているだけなのに、
「どうして?」な結果になってしまう松子。
その悲壮感は、映画ではデフォルメされてるけど、
原作は、生なましい。
エピソードも深い。
映像化されたものを見てしまったから、
どうしてもキャラクターは、その配役を思い浮かべて読んでしまうけど、
いろんな人のいろんな人生が織り込まれていて、
すごい読み応えあり。
上下巻、4日で読み終えました。
松子のことを、可哀相な女、といってしまえばそれまで。
でも、充実した幸せな時もちょこちょこあったし。
愛されたい!気持ちは、人一倍。
一生懸命な姿は、いじらしい。
ラストは、、、、たまんないです。
やっぱり人間、そのときその時の出会いは大事に、
後悔しないように、自分に正直に、
生きていければいちばん。
ある女性の一生に、これほど引きずり込まれるとは、
なんと上手い書き手なんだ、と思ったら、
作者山田宗樹氏は、ミステリー作家なんですね。
知らなくてすみません(*- -)
横溝正史賞受賞作「直線の四角」を読んでみます!